COLUMNお役立ちコラム
住宅ローンの繰り上げ返済は損なのか?損をしないための正しいタイミング
長期間にわたる住宅ローンの返済。途中で各家庭を取り巻く状況も変わってくるので、繰り上げ返済をするべきか迷う人も多いのではないでしょうか。
実は繰り上げ返済をすると得をするか損をするかはその人次第なので、一概に良いか悪いかはいえません。
繰り上げ返済で損をしないためには、どのタイミングで繰り上げ返済に踏み切るべきなのでしょうか?一緒に考えていきましょう。
繰り上げ返済とは?
そもそも住宅ローンの繰り上げ返済とは、毎月の返済金額とは別に借入額の一部や全部を返済することを指します。
毎月の返済額にはその月返す分の元金に加え、先月の返済日から今月の返済日までの期間に対する利息が含まれていますが、繰り上げ返済には利息が含まれません。
繰り上げ返済した金額は丸ごと返済残高から差し引かれるので、繰り上げ返済をすればその部分に上乗せされるはずだった利息がかからなくなります。
そのため、手元にある程度の資金が貯まると「よし、繰り上げ返済をしよう」と考える人が少なくありません。
繰り上げ返済の種類(*概要、それぞれどんな人に向いているのか)
繰り上げ返済には、次の2つの種類があります。
その人の状況によってどちらが適しているか変わってくるので、まずはそれぞれの特徴を把握しましょう。
返済期間短縮型
返済期間短縮型は、繰り上げ返済後も毎月の返済額が変化しません。
繰り上げ返済した金額はすべて、文字通り返済期間を短くするためにあてられます。
住宅ローンは返済期間が一般の人で最長35年間と長いため、期間を短縮すると返済総額がぐっと抑えられます。
手持ち資金や毎月の収入と支出のバランスに余裕があり、単純に「損をしたくないので返済総額を減らしたい」という方には、こちらがおすすめです。
返済額軽減型
返済額軽減型は、繰り上げ返済後の毎月の返済額を減らす方法です。
繰り上げ返済後も、返済期間は変化しません。
返済期間が減らないのでその部分に対する利息がそのままかかるため、軽減できる返済総額は返済期間短縮型に比べると小さくなります。
しかし毎月の負担が減らせるので、収入に対して毎月の返済額が大きい方や、毎月の返済額が負担に感じている方にはこちらがおすすめです。
返済期間短縮型と返済額軽減型のシミュレーション
たとえば、返済期間35年で住宅ローン3000万円を全期間固定利率1.5%で元利均等返済にて借り入れた場合について、残り返済期間30年の時点で200万円の繰り上げ返済を行うとして、それぞれの効果をシミュレーションしてみましょう。
- 借り入れ条件
当初借入元金 3,000万円(ボーナス返済分なし) 当初借入期間 35年間 返済済み期間 5年間 返済方法 元利均等返済 毎月返済額 9万1,855円 借入金利 1.5%(全期間固定) 繰り上げ返済額 200万円 |
- 共通の繰り上げ効果
繰り上げ前元金 2,661万5,451円 繰り上げ後元金 2,455万6,865円 |
- 返済期間短縮型の場合
毎月返済額 9万1,855円(変化なし) 残り返済期間 27年3ヵ月 利息負担軽減額 106万8,807円 |
- 返済額軽減型の場合
毎月返済額 8万4,937 円 残り返済期間 30年 利息負担軽減額 48万3,382 円 |
2種類の繰り上げ返済効果を比較してみると、やはり利息負担の軽減効果は返済期間短縮型の方がかなり大きいことがおわかりいただけるはずです。
返済期間も丸3年近く変わってくるので、ライフプランの立て方にも影響するのではないでしょうか。
繰り上げ返済を行う上手なタイミング
ご紹介したような利息負担軽減効果を大きくするには、できるだけ早い段階で繰り上げ返済に踏み切る必要があります。
住宅ローンは返済期間が長いため、どうしても返済当初は利息部分の支払い割合が高くなり、元金がなかなか減りません。
少しでも利息負担を減らしたいなら、少しの金額でも良いので早めのタイミングで繰り上げ返済を行いましょう。
逆に返済期間終了間近になると、繰り上げ返済をしてもあまり大きな利息負担の軽減効果が期待できません。
住宅ローン控除と住宅ローン繰り上げ返済のタイミングの関係
「利息負担を減らすためには早い段階での繰り上げ返済が大切」とお伝えしましたが、その際に注意していただきたいのが「住宅ローン減税」の適用期間です。
住宅ローン減税の適用期間が残っているうちに繰り上げ返済をすると、借入元金が減るため、控除額が減ってしまいます。
人によっては所得税額の負担が大きく、控除額が減ることで損をする場合もあるため、事前にシミュレーションをして控除と繰り上げ返済の利息負担軽減効果を比較しなければなりません。
住宅ローン減税制度は、国が住宅を取得する人の負担を軽減するため、所得税から毎年住宅ローンの借入残高の1%にあたる金額を控除する制度です。
適用を受けるには対象となる住宅の広さや借入期間などの要件を満たし、申請手続きをします。平成26年4月から令和元年10月までに住宅ローンを組んだ人なら、10年間で最大400万円の控除が受けられます。
さらに、令和元年10月以降は消費税率の引き上げを受けて控除期間が拡充されました。
令和元年10月以降に住宅ローンを組んだ人は控除期間が13年間となり、合計400万円を超える控除が受けられるケースもあります。
所得税だけでは住宅ローン減税の控除額が使いきれなかった場合、住民税からも一部控除可能です。
そのため、「所得税はそんなにかかっていないから」という人も、繰り上げ返済をした場合としない場合のシミュレーションは必要です。
損をしないための住宅ローンを繰り上げ返済するタイミングとコツ
住宅ローン減税との兼ね合いで損をしないためにおすすめしたい繰り上げ返済のタイミングは、控除期間終了の翌年です。
控除期間が終了していれば、借入残高が減ることで控除額が減り、結果的に損をするという心配がありません。
控除期間は10年間もしくは13年間あるので、その頃には住宅取得に伴う頭金や諸費用の支払いで減った預金を貯め直し、ある程度、手元資金に余裕を持たせることも可能になっているはずです。
「お金がある程度貯まったら、繰り上げ返済しよう」という漠然とした考え方だと、なかなかお金も貯まりませんし、繰り上げ返済しないまま漫然と返済期間が経過してしまいがちです。
住宅ローン減税適用期間は、お勤め先の年末調整や確定申告によって所得税や住民税の控除額が毎年手元に返ってきます。
年末調整の翌月に給与と一緒に振り込まれたり、税務署からの還付金として指定口座に振り込まれたりすることになります。
本来なら所得税として納めるはずだった金額を、負担しなくて良くなるわけです。
できれば毎年その金額を貯めておき、控除が終わった翌年にまとめて繰り上げ返済にあてましょう。
そうでない場合も、「いつ頃にいくらくらいの繰り上げ返済をしよう。そのためにいくら貯めよう」など、具体的な目標を定めておくと実現しやすくなります。
繰り上げ返済をする際の注意点
繰り上げ返済をする際、知っておいていただきたい注意点に手持ち資金との兼ね合いがあります。
住宅ローンを組む人は、基本的に金融機関から「団体信用生命保険(団信)」への加入を義務付けられます。
団信は住宅ローンの借主が返済期間中に亡くなってしまった場合、残りの返済額を免除する保険制度です。
残されたご家族の負担をなくすための制度で、住宅ローンにセットでついてくる生命保険の一種と考えれば良いでしょう。
団信の保険料は金融機関が負担し、借主には負担がかかりません。
ただし住宅金融支援機構の提供する住宅ローン「フラット35」の場合は、保証料がかからない代わりに団信の保険料がかかります。
近年は特定の疾病にかかった場合、以後の返済を免除する拡充タイプの団信も各金融機関から登場しており、保険料をプラスすることで選択可能です。
繰り上げ返済をした直後に万が一、借主が亡くなってしまった場合、繰り上げ返済にあてた金額の預金が家計から減っているため「損をしてしまった」とも考えられます。
人の生死は誰にも予測できないので、こればかりは事前にシミュレーションすることができません。
また、いくら利息負担が減っても、手元の資金が減って目の前の生活が苦しくなっては意味がありません。
自動車ローンや教育ローンなど、一般的な融資は住宅を担保に入れる住宅ローンに比べると金利が高くなります。
住宅ローンの返済額が減っても、「車が急に壊れたから」「国公立大学を目指していたけど、子どもが私立大学に進学することになったから」などという理由で、代わりに別の融資を借り入れていては本末転倒です。
大切なのは、繰り上げ返済後も手元にある程度の資金を残しておくことです。
急に資金が必要になっても慌てることのないよう、一定の預金額を確保しておきましょう。
繰り上げ返済手数料の有無も確認を
現在、多くの金融機関がインターネット経由で手続きすることで、金額の指定なくいつでも繰り上げ返済が可能というサービスを提供しています。
その一方で、繰り上げ返済のたびに手数料や申し込み手続きが必要な金融機関も少なくありません。
同じ金融機関であっても、インターネット経由、窓口もしくは書面申込、電話などの申し込み方法によって、繰り上げ返済手数料が変わってくるケースもあります。
そのため、「手元の資金に余裕ができたらこまめに繰り上げ返済がしたいな」という人は、住宅ローンを選択する前に繰り上げ返済の手数料も確認しておきましょう。
大手の金融機関の中でも、繰り上げ返済の手数料は3万円以上するところから無料のところまで実にさまざまです。
大手の都市銀行や信託銀行の場合、ネット経由以外の申し込みだと繰り上げ返済手数料がかかるケースが多く、ネット銀行などの金融機関では申し込み方法に関わらず手数料がかからないケースが多いようです。
まとめ
ここでは、住宅ローンの繰り上げ返済について概要から損をしないコツ、注意点までをまとめてご紹介しました。
特に住宅ローンの返済期間が定年退職後におよぶ人は、老後は思った以上に収入の減少によって支払いが厳しくなるため、早い段階で返済期間短縮型の繰り上げ返済を検討してください。
繰り上げ返済を上手に使うことで、住宅ローンの負担を減らしましょう。